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ジャヤナギ   蛇柳

ヤナギ科ヤナギ属
学名:Salix eriocarpa
別名:オオシロヤナギ   
 
葉の裏面は粉白色 花序は短い
  属名のSalixは跳ぶの意。種小名のeriocarpaは軟毛がある果実の意。

  ヤナギ属は雌雄異株であるが、日本ではこれまでジャヤナギの雄株は知られていないとされる。古い時代に大陸から渡来したと考えられている。
  雌株しかなくても結実する樹木はヤマコウバシクロガネモチの例があるが、ジャヤナギの果実に発芽力を備えた種子ができるかどうかは今のところわからない。では雄株なしでどうやって子孫を残していくのか。それは枝の構造に秘密がある。小枝にちょっと触れただけでも枝はポキッと折れて分岐点からはずれてしまう特徴があるのだ。強風で折れた小枝は風で遠くに飛ばされ、着地した場所で根をおろし成長していくのである。私が花を撮影しようと小枝をちょっと引き寄せただけでもポキッと折れてしまった。肩が触れただけでも折れてしまう。

  岸和田市では別所町宮の池公園の湿地で見ることができる。柵で囲まれているので観察しにくいが、柵の近くまで枝葉を伸ばしていることがある。


  雌雄異株。

ジャヤナギの名の由来
  ジャヤナギの名付け親は植物学者白井光太郎博士(1863〜1932)で、牧野富太郎博士と同時代の人である。牧野富太郎の文によれば、高野山でヤナギの古木を採集した白井光太郎はその木が当地で蛇柳と呼ばれていたものをそのまま種の名前に定めたという。現在ではこのジャヤナギは枯死しているというが、牧野富太郎も枯れる前にこのヤナギを観察し枝を標本にしたと書いている。
  この蛇柳はその特異な樹形から有名だったようで紀伊国名所図絵(1838)にその図が載っており、紀伊続風土記(1839)には記事があるという。斜めに幹を伸ばし枝葉を茂らせた蛇が臥せたような樹形から蛇柳と呼ばれたと考えるのは容易だが、それだけではないようである。牧野富太郎は植物採集会の指導で高野山に行った折に幹部の僧から聞いた話として書いているが、昔邪悪な陰謀を企てた僧を生埋めにしたその場所に柳を植え、その罪悪を示すために蛇柳と呼んだというのである。名付け親の白井博士がこの話を知っていたかどうかはわからないが、もし知っていればジャヤナギではなくまた別の名前を定めたのではないかという気がする。

  白井博士によるジャヤナギ命名のエピソードを紹介した牧野富太郎博士の一文を読み、詳細をネットで調べてみた。高野山霊宝館のサイト>高野山よもやま記>万丈転の刑の項に次のような記述がある。
  「
高野山で何がしかの罪を犯したものは、軽い場合、寺領外への追放となります。その際、頭の左右の耳より前の髪、すなわち鬢(びん)を片方だけそり落として、その部分に朱で入れ墨されたそうです。重罪の場合は、奥之院の「蛇柳(じゃやなぎ)」付近の地中に生きたまま埋めらる極刑となります。」
  また戸谷新右衛門という人の項には、 「
江戸時代は享保7年(1722)6月19日、高野山の蛇柳と呼ばれる場所で、鬼神も泣くと恐れられた石子詰(いしこづめ)の刑が行なわれたといいます。」 とも記されている。
  このように高野山においては蛇柳の語は単にジャヤナギの木を指すのではなく、刑場の意味があったようである。

  文献には ”ジャヤナギは雄株がなく人里近くで見られることから古い時代に大陸から渡来したと考えられている” とあるが、高野山といえば唐で真言宗を学び帰国した空海が開山した地であるからジャヤナギの渡来に関して空海とのつながりを想像してみるのも歴史ロマンであろう。空海ならずとも、9世紀末に遣唐使が廃止された後は反対に唐から商人が渡来したといわれるので、あるいはそういった商人が持ち込んだことも考えられるし、もっと古く朝鮮半島から渡来したとも考えられる。
  いずれにしても渡来植物であり日本の山地にはなかったはずのジャヤナギが高野山上で見られたのは、やはり仏教の縁でもたらされたと考えるのが自然であろう。
余談

  歌舞伎十八番のひとつに「蛇柳」という演目がある。この蛇柳は高野山の蛇柳に関連するものだというが、江戸時代の台本が失われていて芝居のなかで高野山の蛇柳がどのように位置づけられているのかは不明である。
  なお、2013年11代目市川海老蔵は「蛇柳」を新しい創作脚本で上演している。

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樹形 環境 果実 樹皮 冬芽 仲間の樹木

樹形  落葉高木。
高さ10mほど、直径30cmになる。
樹形

別所町
宮の池公園で
2009.1月
樹形
冬の樹形

別所町
宮の池公園で
2014.3月
冬の樹形
春の枝葉

別所町
宮の池公園で
2009.4月
枝葉
枝葉

別所町
宮の池公園で
2012.5月
枝葉
   環境  低湿地
   雌雄異株。 花期:3〜4月 葉の展開と同時に開花する。    
雌雄異種だが、日本では雌株だけが知られている。花序は長さ
1.5cmの楕円形、短い柄があり柄に数枚の小葉がつく。
   雌花 
花序は短い

別所町
宮の池公園で
2009.4月
花序は短くてかわいい
花序

別所町
宮の池公園で
2009.4月
花序
花序

別所町
宮の池公園で
2009.4月
花序
子房は無柄で白い毛を密生する

花柱はやや長く柱頭は線形で2裂してそり返る
子房と柱頭
花序の断面

苞は淡黄緑色
腺体は淡黄色で2個

花序の断面
  互生。
葉身の長さは約13cm、狭楕円形〜披針形。先は長くとがり、ふちに先端が腺になる細かく鋭い鋸歯がある。両面無毛。葉の最大幅は基部に近く、下ぶくれ。葉柄の長さは1cm内外。
春の枝葉
新葉は強い光沢がある

別所町
宮の池公園で
2009.4月
新葉は強い光沢がある
   葉の表
   濃緑色

   5月
幅がせまい葉の表面
落葉前の葉表

1月
葉の表面
   新葉の裏
   粉白色

   4月
新葉の裏面
幅がせまい葉

4月
幅がせまい葉の裏面
落葉前の葉裏

1月
葉の裏面
  表面の鋸歯

  4月
鋸歯の先端は腺になる
  裏面の鋸歯

  1月
鋸歯は細かい
     托葉

     5月
托葉
     托葉

     6月
托葉
果実   さく果。
5月に熟して裂開する。
果実
         果実           別所町宮の池公園で    2012.4月
   若い果実

   4月
若い果実
   若い果実

   4月
若い果実
果実

別所町
宮の池公園で
2012.4月
果実
裂開する果実

別所町宮ノ池で
2014.4月
裂開する果実
裂開する果実
柳絮がみえる

別所町宮ノ池で
2009.4月
裂開する果実
柳絮が飛散し終えた果序

別所町
宮の池公園で
2012.5月
柳絮が飛散し終えた果序

種子   
  柳絮(りゅうじょ)が飛ぶころの果実を採取し種子を探してみたが、どの果実も種子を確認することができなかった。本種の果実は不稔なのだろうか。それは国内に本種の雄株がないことに関連しているのかもわからない。が、一方で前文にも書いたように雄株がなくても結実する樹木は存在する。
 ジャヤナギの場合は折れやすい枝が風や水の力で移動し他の場所で根をおろして繁殖する性質を獲得しているから、種子を作る必要がないといえるのかもわからない。

 
樹皮  灰黒色〜灰褐色。
たてに深く割れる。小枝の分岐点から折れやすい。
枝はまるい皮目を散生する。裸材に隆起線はない。
前年枝の樹皮

3月
枝の樹皮
前々年枝の樹皮

3月
枝の樹皮
やや太い枝の樹皮

3月
枝の樹皮
枝にはまるい皮目がある 若い木の樹皮
   太い枝の樹皮    若い木の樹皮
成木の樹皮 成木の樹皮
   成木の樹皮  直径10cm     成木の樹皮  直径20cm
冬芽  長さ約4mmのやや扁平な狭三角形、花芽は淡褐色。
枝先の冬芽

2月
枝先の冬芽
花芽は淡褐色

横から見ると扁平

3月
冬芽はやや扁平
  葉芽

  3月
葉芽
仲間の樹木  
ネコヤナギ、サイコクキツネヤナギ、オノエヤナギ、オオタチヤナギ、
カワヤナギ、ヤマヤナギ、コゴメヤナギ、タチヤナギ、キヌヤナギ、
バッコヤナギ、シダレヤナギ、マルバヤナギ(アカメヤナギ)

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